SNSでバズっても、成果とは限らない。 日本市場で本当に見るべき指標とは?
SNSへの投稿が爆発的に拡散されることは、どの企業にとっても夢のような出来事だ。自然発生的にバズることはめったになく、実際に起こればチーム全体が歓喜に沸く。
しかし、上司から「それで、どんな成果があったのか?」と聞かれると、明確に答えられる人は意外に少ない。
SNSでの成功は、数字として目に見えやすい。数千件の「いいね」、数百件のシェア、絵文字で埋め尽くされたコメント欄。こうした数字を集めるのは簡単だ。しかし、それがキャンペーンの成果として何を意味するのかを判断するのは、はるかに難しい。
特に日本では、こうした数字が実際の効果を正しく反映しているとは限らない。
何千もの「いいね」を集めても、消費者の行動には何の変化も起こらない投稿がある。一方、表立った反応はほとんどなくても、LINEグループで共有され、誰かの週末の予定を決めるきっかけになる投稿もある。旅館を紹介するInstagramのリール動画が、何週間も保存されたまま、ある日突然、宿泊予約につながることもある。
Metaによると、Instagramでは写真や動画を共有する手段として、今やメッセージ機能が最も多く利用されている。また、同社のプラットフォーム全体で、リール動画は1日に45億回以上も再シェアされているという。
つまり、投稿したコンテンツがその後どのように広がり、受け止められ、行動につながっているのか。その大部分は、企業側からは見えていない。
日本のSNSマーケティングを理解するには、ユーザーが投稿をスクロールした後に何が起きているのかを見極める必要がある。
日本で最も多くの人に利用されているのは、非公開のコミュニケーションツール
まず、数字から見てみよう。
DataReportalの推計によると、2025年10月時点の日本のSNSユーザー数(アカウントベース)は9,900万で、総人口の80.5%に相当する。これはLINEが公表している月間アクティブユーザー数9,900万人と一致する。また、Instagramの広告ツールが示すリーチ可能人数は6,320万人、Xは7,120万人、TikTokは成人ユーザーで3,920万人となっている。
(出典: DataReportal)
一方、ICT総研の推計では、2025年末時点の国内SNS利用者数は8,520万人と、やや少ない。
(出典: ICT Research and Consulting)
これらの数字は調査方法が異なるため、単純に比較して順位をつけることはできない。それでも、ひとつの事実は明らかだ。日本で最も広く利用されているプラットフォームはメッセージアプリであり、そこで交わされる会話は、当事者以外には見えない。
では、消費者が実際に何かを選ぶとき、どのような行動をとるのだろうか。
例えば、高円寺のレストランをTikTokで初めて知り、Instagramで写真や口コミを確認し、LINEで友人と相談して、最後にGoogleマップで場所を調べる。日本の消費者は、商品を購入したり店舗を訪れたりする前に、さまざまな情報を調べ、比較検討する傾向が強い。
消費者にとっては、ごく自然な行動だ。しかし、企業のコミュニケーション担当者から見ると、その足跡は4つのプラットフォームに分散し、しかも大部分は把握できない。
LINEのグループチャットも、情報を広める重要な経路
PRにおいて昔から重要なのは、人々がある情報に接した後、何が起きるかということだ。メディア掲載によって企業の存在が知られ、その後の会話や口コミによって情報がさらに広がっていく。
分析ツールでは追跡できないプライベートな経路での情報共有は、「ダークソーシャル」と呼ばれる。何やら怪しげな言葉だが、実際には友人同士が情報をやり取りしているだけのことだ。
重要なのは、その情報が相手に届いたとき、何が起きるかである。
その時点で、情報を発信しているのはもはや企業ではない。誰かが「これは知り合いに伝える価値がある」と判断し、自ら共有しているのだ。
これこそが口コミであり、日本では昔からPRの成功を左右する重要な要素となってきた。
例えば、東京に新しいホテルが開業したとしよう。まず、ホテルが自社のSNSなどで開業を発表する。次に、旅行メディアが独自の視点を加えて記事にする。そして、その記事を読んだ人が、東京旅行を計画している友人に送る。
伝えられる情報自体は、ほとんど変わらない。しかし、その情報が持つ意味は、共有されるたびに変化していく。最初は企業からの発信だったものが、メディアによる第三者の評価となり、最後には友人からの個人的なおすすめになる。もちろん、シェアされたからといって、必ずしも賛同や推薦を意味するわけではない。役に立つから、意外性があるから、あるいは議論を呼ぶ内容だからという理由で共有されることもある。それでも、シェアされたという事実は、その情報が最初に掲載された場所を離れ、誰かに伝えたいと思わせるだけの価値を持っていたことを示している。
私が東京で通っている理容師は、フォロワーがわずか3,000人で、店も一人で切り盛りしている。しかし、毎日朝から晩まで予約で埋まっている。割引もなければ、派手なキャンペーンもない。それでも、自分のサービスに関心を持つ顧客層に的確に届き、その価値を理解する常連客を獲得している。数字だけを見れば目立った成功には見えないかもしれない。しかし、ビジネスとしては非常に大きな成果を上げているのだ。
「保存」はブックマークであって、予約ではない
SNSの「保存」は、その情報が最初に見たときだけでなく、後からも役立つと判断されたことを意味する。人々は、いつか行きたいレストランを保存し、旅行を計画しながらホテルの情報を集め、気になる商品を比較するために投稿を残しておく。
ある旅館の投稿が、何カ月も保存されたままになることもある。その間に、旅行記事を読んだり、インフルエンサーのレビュー動画を見たり、料金を比較したり、LINEで家族や友人と相談したりする。最初の投稿が果たした役割は、ただひとつ。その旅館を「候補のひとつ」に加えたことだ。
しかし、旅行、ラグジュアリー、自動車、美容といった、購入や利用の決定までに何度も情報に触れる分野では、これだけでも大きな意味を持つ。保存されたからといって、購入意向があると断定することはできない。ただ、後でもう一度見たいと思わせたことは確かだ。
簡単に測れる数字が、重要な数字とは限らない
閲覧数、「いいね」、コメント、クリック数、フォロワーの増加、動画の視聴時間。これらは投稿に対する即時的な反応を詳しく示してくれる。問題は、簡単に集められる数字が、いつの間にか成功そのものの定義になってしまうことだ。
例えば、東京の抹茶カフェを紹介する投稿が2万件の「いいね」を獲得したとしよう。確かに大きな反響だ。しかし、それだけでは、何人がそのカフェの名前を覚え、後から検索し、実際に足を運んだのかはわからない。認知、信頼、比較検討といった変化は、たった一度の接触で生まれるとは限らない。だからこそ、まず考えるべきなのは、消費者にどのような行動を起こしてほしいのかということだ。
旅行先を保存してほしいのか。記事をLINEで共有してほしいのか。企業や商品の名前を日本語で検索してほしいのか。それとも、問い合わせにつなげたいのか。最初に期待する行動を明確にし、それに合った指標で成果を測るべきなのだ。
SNSの成果を判断するための3つの質問
投稿の「パフォーマンスが良かったか」を問うだけでは不十分だ。代わりに、次の3つを考えてみよう。
1. 人々の目に留まったか?
リーチ数、インプレッション数、閲覧数、視聴時間などは、情報がターゲット層に届き、見てもらえる機会があったかを示す。
2. 人々にとって価値のある情報だったか?
コメント、保存、シェアなどは、単に目にしただけでなく、反応したい、後で見返したい、誰かに伝えたいと思わせる内容だったかを判断する手がかりになる。
3. その後の関心や行動につながったか?
検索数、ウェブサイトへのアクセス、問い合わせ、追加のメディア掲載などは、最初の接触をきっかけに、人々の関心がさらに広がったかを示してくれる。
ただし、どの接点がどれだけ成果に貢献したのかを、正確に特定することは難しい。例えば、Instagramでホテルを知り、その後ニュース記事で再び目にし、最後にLINEで家族と相談して予約したとする。分析ツールだけでは、それぞれの接点が予約にどの程度影響したのかはわからない。だからこそ、すべてを正確に把握しているかのように見せるレポートよりも、測定の限界を認めたレポートの方が信頼できる。
重要なのは、得られたデータから、どこまで説得力のある説明ができるかということだ。消費者の行動を完全に追跡できるという考えは、現実的ではない。
情報が次へと広がる理由をつくる
この3つの質問は、投稿した後だけでなく、情報を発信する前にも役立つ。人々の目に留まるだろうか。後からも役立つだろうか。誰かに伝えたいと思ってもらえるだろうか。
日本のジャーナリストにとって価値があるのは、国内市場との関連性が明確なデータかもしれない。消費者にとっては、場所、料金、予約方法といった実用的な情報が重要だろう。インフルエンサーにとっては、自分のフォロワーが期待しているテーマに合ったストーリーであることが大切だ。
これは、メディア掲載によって得られる露出にも当てはまる。記事掲載はゴールではなく、出発点だ。読者が記事をLINEで共有し、Xで話題にし、企業や商品について検索する。その結果、情報は掲載媒体の読者数を超えて広がっていく。
目指すべきなのは、必ずしも「バズること」ではない。公開初日だけで消費されるのではなく、その後も役立ち、誰かに伝えたくなるだけの中身を持つ情報をつくることだ。洗練された投稿は人々の注目を集める。しかし、そこからさらに広がっていくためには、共有したくなる理由が必要なのである。
バズったら喜ぼう。そして、その次を考えよう。
SNSの普及によって、PRに携わる私たちは、かつてないほど多くのオーディエンスデータを手にできるようになった。それでも、見えているのは全体の一部にすぎない。そして、見えない部分にこそ、重要な成果が隠れていることが多い。
だから、次に日本でSNS投稿がバズったら、まずはその成功を喜ぼう。そして、こう問いかけてみてほしい。
「その投稿を見た人たちは、その後どう行動したのか?」
その問いに答えられないのであれば、ダッシュボードに並ぶ数字は、単なる数字でしかない。
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著者について
アレン・パーカー
パルテノンジャパン株式会社 代表取締役社長。コミュニケーションおよび戦略のリーダーとして、アゴダ、エア・カナダ、オリンパス、レッドブル、スイス・リー、ストライカーなど、多くのグローバルブランドを支援。日本在住18年以上。




