日本活性化(パート2):不動産の現実とは

Rural real estate in Japan.

地方創生に取り組むにあたり、「地方の過疎化」と「地方の不動産価値への悪影響」は避けては通れない問題である。過去70年間、より良い進学・経済的機会を求めて地方から都市へ流出する若者が増えており、東京・大阪・名古屋を中心とした都市部への人口集中が進んでいる。その結果、日本の地方は苦境に陥っている。雇用機会の減少、高等教育機会の制限、急速に進む地域社会の高齢化を始め、あらゆる要素が地方衰退の悪循環を引き起こしている。多くの若者は地方を離れ、決して戻らない。

過疎化は負のスパイラルをもたらす。学校や病院などの公共サービスは、地方自治体の資金不足で維持が困難になり、地方の不動産の資産価値をさらに低下させてしまう。放置された不動産「空き家」は、都市部を含め日本全国に存在するが、特に地方での増加が著しい。2018年の政府の調査によると、国内の空き家は800万戸以上、つまり日本の不動産の約12.9%が放置されているということになる。納税者の減少と税金滞納放置物件の増加は地方自治体にとって大きな課題であり、地方の財政赤字を招いている。

日本の地方の不動産問題はどれほど深刻なのか?その要因は何なのか?状況を改善するための解決策はあるのだろうか?見てみよう。

地方不動産の負のジレンマ:

日本の地方が抱える不動産のジレンマの深層を理解するには、統計を見るとよい。世界銀行の推定によると、今日日本の都市人口率は92%である。1945年は50%程度だったことを考えると、その差は歴然だ。80年足らずの間に、都市人口に対する地方人口比率は50%から10%未満になった。この変化は社会や産業に大きな影響を及ぼしている。

農業は、都市への人口移動の影響を受ける産業の一つの例だが、とても重要な産業である。若者が都市での生活を選択した結果、2020年には農業従事者の平均年齢は67.8歳になった。若者が畑を耕したくないのは驚くべきことではないかもしれないが、若者の農業離れは深刻な移民不足と相まって、日本の食料自給率に影響を及ぼすだろう。日本の食料自給率は現在37%である。したがって、安定的な輸入を確保しないかぎり、日本は食糧不足のリスクにさらされ続け、持続可能性と国家安全保障の取り組みに支障をきたすことになる。

当然のことながら若い世代にとって、安定したホワイトカラーの仕事、効率的な公共交通網、活気あるナイトライフなど、都市での生活は魅力的な選択肢である。若者がライフスタイルを選択するにあたって、地方は魅力的な対案を出すことができなかったということだ。

相続に着目してみると、地方に住む高齢の不動産所有者が亡くなった場合、相続人が相続対策をしていないことが多く、相続した不動産が放置されることが多い。これは更なる残念な現実を招く。つまり、遠くにある古民家を、遠くに住む親族と新たに共有することになった場合、どうすれば良いのだろうか。よほど価値のある不動産でない限り、日本では残念ながら「何もしない」という答えにたどり着くことが多いのである。

更に問題を複雑化しているのが、日本の相続法である。不動産は廃墟であろうとなかろうと、相続人の利害に関係なく、代々相続されることが多い。その原因の一つは、相続税の納税義務にある。相続人は、被相続人の死亡後10ヶ月以内に相続税を全額納めなければいけない。被相続人が相続税の支払いのために多額の現金を残していない限り、相続人は相当な金額を支払って不要な家を所有するか、売却するか、相続を辞退するかのいずれかを選択しなければならない。

かつては住みやすかったが、今は錆びついたり、陥没したりしてしまった住宅が日本の地方に点在しており、その数は増える一方である。しかし、行政は資金不足のため何もできないことが多い。野村総合研究所は、この傾向が続けば2038年までに日本の全住宅の30%に相当する2200万戸が廃墟になると予測している。この流れを変えることはできるのだろうか。


こちらの記事は、「地方創生」をテーマにしたシリーズの第2回目です(全6回)。本記事と合わせて、パルテノンジャパンの新しい公式ポッドキャスト「Japan Unleashed」でも、各トピックを取り上げています。(英語のみ).


若者に「田舎」を感じてもらう

トンネルの先に光が見えるかもしれない。ライフスタイルを変えたい、ゆっくり暮らしたい、生活費を安くしたい、そんな若者たちが地方に移住し、空き家を手に入れてリノベーションする動きが出てきている。地方自治体の税制及び財政上の優遇措置により、新築・改築の家、そして「空き家」の人気が全国的に高まっている。また、多くの企業が労働者を確保するためにハイブリッドワークやフルリモートワークを提供せざるを得ないという現状も、非都市型ライフスタイルの魅力に拍車をかけている。

しかし、まだ簡単に売れるわけではない。人々が地方経済圏で適切な仕事を見つけるのは困難である。逆に言えばそれは高度な技術を持った現地労働者を見つけるのが難しいということでもある。また、若い家族は儲かる仕事を見つけるという課題に加え、子供の教育の選択肢を検討する上で、更なる困難に直面する。地方の公立学校の教育の質は一流である場合もあるが、地域や学校によってその質の差は非常に大きい。
インフラを維持するための公的資金の不足により、十分な教育関連資金やその他必要な資金が追加されるどころか減らされていることも多く、地方暮らしの見通しが立たなくなってしまうことも多い。

また、社会的な要因も作用している。実際、日本人であれ外国人であれ、新参者を歓迎する地域は限られている。このような傾向を打破するためには、新参者を受け入れ、地域に溶け込ませるという地方都市の意識改革が鍵となる。

政府の役割

政府の政策は、全体像にプラスとマイナスの両方の影響を及ぼしている。中央政府は子供税額控除で家族に移住費用を支給している。例えば2022年には東京都議会で、東京都に在住・あるいは通勤通学している人が、首都圏(埼玉県、千葉県、神奈川県を含む)以外に移住する場合、子ども1人につき100万円を支給するという制度が承認された。しかし、この金額は、安くて住みやすい空き家の価格、ましてや地方に新築物件を建てる際の費用と比較するとあまり魅力的な金額とは言えない。また、仮に2027年までに首都圏外への転出者1万人という目標を達成したとしても、東京都の人口はわずか0.03%しか減らない。これでは大きな変化をもたらすとは言い難い。しかし、小さな変化も積み重ねることで大きな影響力を持つだろう。

このような取り組みは興味深いものではあるが、目標に届かない長い歴史がある。もし政府が、東京人やその他の都市住民を地方に移住させることに意義があると考えているならば、もっと工夫する必要がある。

大都市圏近郊にある地域は、孤立した地域よりも有利である。しかし、新参者を呼び込むには、インセンティブ、雇用、インフラ、持続可能なコミュニティが必要だ。これは複雑な問題だが、解決することは可能だ。そのためには、単なるインセンティブの給付ではなく、論理的・客観的・合理的な思考の結果としてのみ生まれる、より魅力的なインセンティブが必要だろう。

この問題を国や地方自治体の問題と考える人は多いが、官民連携はより良い解決策を提供することができるだろう。地方に雇用機会を提供する官民連携の取り組みは、長期的に大きな影響をもたらすだろう。何万人もの労働者を雇用する日本の大企業は、積極的に取り組む必要があるが、今のところ有意義な方法でそれを行っている企業はほとんどない。

傷口に塩:マンション価格の高騰と戸建住宅価格の下落

もう一つの切実な課題は、価値観の相違である。都市と地方の価格差に加え、マンションは多くの地域で戸建住宅と比較した際、安定して価格が上昇している。マンションは都市部に建設されることが多い。日本のマンションブームの背景をいくつか見てみよう。

  1. 租税優遇制度:日本では、土地と住居を分けて評価するため、高層マンションとその所有者が支払う実際の税金は、戸建住宅に比べて明らかに少なくなる。加えて、評価額は市場価格より低い傾向にあるため、投資目的で所有する人が増えている。さらに、現在の相続税法では、マンションを所有する方が有利である。
  2. 投資収益率:マンション市場は、戸建住宅市場に比べて安定的に推移している。これは、積極的な販売・マーケティング活動により、近年の消費者の好みが安全・安心な住宅に傾いているためだ。また、マンションは戸建住宅に比べて貸し出しやすく、過去の例を見ても、投資収益率は非常に高い。
  3. 需要と供給:全国的にマンション価格上昇が続くなか、新築マンションの供給戸数は着実に増加している。大手デベロッパーが供給をコントロールし市場シェアを拡大させていることにより、その価格は高止まりしている。また、小規模計画開発の一環として住宅メーカーによる分譲住宅の建設も行われているが、平均価格がマンションよりも高い上に、都市部でさえも再販価格が懸念されている。地方ではなおさらである。
  4. 低金利:日本銀行が現状の金融緩和を続ける限り、銀行は住宅ローン借入者に1%を切るような驚異的な低金利を提供することができる。このような低金利のため、銀行は都心部にある新築マンションの購入者には積極的に住宅ローンを提供するが、地方の不動産には全く逆の対応をとる。地方の住宅、特に古い住宅は担保評価が低く、住宅ローンを組むのは不可能ではないにしても難しい。

解決策:鍵になり得る技術・外国人・投資

課題は膨大だが、技術がその解決に貢献している。日本企業もリモートワークやEコマース、宅配業者などを少しずつ受け入れ始めており、新しいラストマイルデリバリー(最終消費者への配送)ソリューションが地方の生活をより便利にしている。また、一部の地域では非営利団体が都市と地方を新しいサービスでつなぐために活動している。

これだけ安い空き家があると、日本に住む外国人バイヤーや海外投資家も地方に注目し始める。外国人は地方移住に影響を与えることができるのか。円安、法規制の少なさ、比較的低いインフレ率、日本で不動産を所有するための居住要件がないことなどが、近いうちにその答えを導き出すかもしれない。

しかし、日本で不動産を購入することは、それほど単純な問題ではない。手続きは複雑になりがちな上、語学力、さらには取引で損をしないよう日本の不動産に関する知識も必要である。2020年、パルテノンジャパンはこうした日本の不動産投資におけるハードルを下げるため、コンサルティング会社「Akiya & Inaka」を設立した。日本の不動産購入の全体像を俯瞰することで、不動産購入の決め手は、ライフスタイルの目的をはっきりとさせることと物件の状況を総合的に判断する能力を持つことであることが分かった。これは、外国人バイヤーについても同様である。実際、「規格外」の物件を所有する日本人のなかには、このような資質を求めて外国人バイヤーを探す人もいる。

これはすべての人に当てはまるわけではないが、ナショナリズム、あるいはあからさまな人種差別が要因になることもある。ありがちなことだが、このようなケースは、真実ではあるが滑稽なものになりがちである。例えば、地下水の所有権が付いた広大な土地を外国人バイヤーに売却したところ、日本の水資源が瓶詰され海外に輸出されてしまうと訴える反対運動が起きたというような話である。だが、売り手がいなければ買い手は見つからないし、日本人が貴重な資源を失いたくないと思うならば、そもそも物件を売りに出したくないのかもしれない。歴史的な家屋を残したいという願望を持つ家族もいるが、施す術もなく空き家のまま放置されて荒廃し、伝統的な家族の集まりは激減しているのが現状である。

地方の不動産:日本にとって最大の課題であるとともに好機でもある

日本の空き家問題は複雑だが、一つ確かなことがある。
政府が対策を推進していくとしても、2100年には日本の総人口は7500万人まで減少すると予想されている。人口がピークであった2010年の1億2800万人と比較すると、5300万人(58%)減少するという。考えてみよう。居住者がいなくなってしまう家に誰が住むのだろうか。

多くの人がこの課題への解決策の一つとして移民の拡大を主張する。移民拡大は多くの国で実施されてきており、人口減少を避けるために有効な手段であることは明らかである。移民が増える一方で、日本の外国人居住者は2021年時点で280万人であり、総人口の2%程度に過ぎない。日本政府は従来の姿勢を大きく転換し、唯一大きな影響を与えるであろう移民を大量に受け入れるのだろうか。
歴史と政治が示唆するように、政府が日本を移民に開放しようとする意欲は、さまざまな理由から存在しないのである。これについては、本連載の次回の記事で紹介する予定である。

人口減少が不動産価値に与える悪影響は、決して軽視できる問題ではない。地方における住宅価格は、今後さらに人口が減少し、下落が続くと思われる場合、将来の価格下落を見越して、今すぐ売却するオーナーもいるかもしれない。これは、超低金利の住宅ローンで埋め尽くされた、すでに脆弱な地方銀行のバランスシートに直接影響を与えることになる。さらに、苦境に立たされている地方企業の多くは、地方銀行に滞納してしまう可能性があり、将来の見通しは暗い。

地方への移住を容易にするためには、若者が飛びつくような手頃な価格の住宅プログラムとより強力なサポートネットワークの構築が必要である。さらに言えば、不動産への過剰な投資を抑制し、空き家を購入するインセンティブを与える政策や税制を追加することも、政府が検討すべき論理的なステップである。

市町村をより大規模で効果的に運営される地域拠点に統合する努力が続けられているが、地元の懸念、利害関係、地方の都道府県に対する中央政府の巨大な力のために、その進展は緩やかである。

日本は、多くの国にとって憧れの存在である「手頃な価格の住宅が豊富にある」というジレンマを抱えている。しかし、日本では、この問題が深刻で、明確な解決策がない。日本の田舎に多くの人を呼び戻すことは、多くの利点があるが、それを説得するのは言うは易し行なうは難しである。